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M One News 10-01           2010/01/01 夏への扉

 ぼくの飼っている猫のピートは、冬になると決まって夏への扉を探し始める。
 彼は、家に12もあるドアの、少なくともどれか1つが、夏に通じていると固く信じているのだ。
 そして、かくいうぼくも夏への扉を探していた。
 
 あなたなら、どんな気持ちになるだろう?
 もし、最愛の恋人には裏切られ、仕事は取り上げられ、生命の次に大事なものを騙し取られてしまったとしたら・・・・。
 ぼくの心は冬そのものだったのだ!
 
 
 そんな滑り出しで話が始まるのは、米国SF作家の巨匠ロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』。
 
 この本に出てくる猫のピートは、どのドアを開けてみても外は寒い冬なのだけれども、それでもどれかのドアで夏に行けると信じ、試してみたがってしかたがない習性を持っています。
 1つがダメでも、すべてのドアを試してみるまでは納得せず、人間用ドアまで開けろと飼い主にまとわりつく。
 どんなに繰り返そうと、夏への扉を探すのを決してあきらめようとはしません。
 
 何とかしたくても自分ではどうにもできなかったり、追い込まれて八方ふさがりになってしまうことがあります。
 こんなときに、信念があればもう少し頑張れる、やり方を変えてチャレンジすれば乗り越えられる、そんな気がします。
 この頑固な猫が、私にはとってもかわいく思えるのです。
 
 
 未来は、必ず過去に優る。
 人間はその環境に順応し、徐々に環境に働きかけ、新しいより良い世界を築いていく。
 誰がなんと言おうと、世界は日に日に良くなり優りつつあるのだ。
 
 そうはっきり謳い上げることによって、読者を勇気づけてくれる本を、私は他には知りません。
 
 
 
 そしてもう1つ大切なことも、この小説は教えてくれます。
 人生という大事なドアは、自分の手で開けなくてはならないということを。
 
 息苦しい毎日の中でじーっと黙って待っていても、誰もドアを開けてくれない。
 自分で開けないとドアの向こう側には行けない。
 
 もちろん、「向こう側」に何があるかなんて知らないし、考えてもわからない。
 でも、このドアを開ければ何かがある、光があるんだ、と信じきることで道が開けるのでしょう。
 
 行き詰まりや閉塞感―――言葉は何でもいいけれど、その扉を開けるのは誰でもない、自分自身だということです。
 
 
 
 未来への希望と、正直で誠実な人間への暖かいまなざしに、心温まります。
 そしてこの小説は、こう締めくくられています。
 
 「ピートはいつまでたっても、ドアというドアを試せば、必ずその1つは夏に通じるという確信を、棄てようとはしないのだ。
 そしてもちろん、僕はピートの肩を持つ。」

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