M1村田宏彰公認会計士事務所
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マイナンバーの税務実務への影響は大きい。
よく言われるのが、利益の把握。
個人事業主や不動産の大家は、サラリーマンとは異なり、ガラス張りではない。
経費は落とせるし、収入だって何とかなるかもしれない。
税務署からすると、経費はプライベートとの境目が曖昧だから突っ込みにくいが、収入は首根っこをつかむようなもの。
マイナンバー導入で収入を押さえることができれば、大きな武器になる。
税務署が導入を待望していたのも納得できる。
と、この「収入の捕捉」は誰でも容易に想像がつく。
ただ、逆に言えば、収入がないと捕捉もできないし、ましてや摘発などできない。
後手後手に回らざるを得ない。
それが、もし事前に収入を予測できていたらどうだろう。
そんなことが可能なのかと思うかもしれない。
いや、十分可能なのだ。
もし収入の元手がわかっていたら・・・。
銀行口座や証券会社口座にマイナンバーを義務化しようとするのは、そのためだ。
例えば、証券会社にA社の株を○○万株持っているとする。
もうこの時点で将来の株式配当を税務署は予測できることになる。
納税者がうっかり申告を忘れようものなら、国税総合管理(KSK)システムでアラートが鳴り、ペナルティ付きで納付書が送られてくる。。
そんな未来になるかもしれない。
銀行口座も同じだ。
年収の何倍もの異常な入出金があれば、即座にアラートが鳴り、無申告の収入を捕捉できる。
無申告ではないが、実際、それでつかまった人がいる。
アニータ・アルバラードという女性を覚えているだろうか。
チリから出稼ぎに来日し、日本人男性と結婚した女性だが、夫が勤務先の青森県住宅供給公社から横領した14億円のうち、大半の11億円を受け取ったという。
発覚したのは国税局の税務調査とされているが、実は国際送金だった。
時は2001年。
そう、アメリカ同時多発テロがあった年だ。
CIAが躍起になって調査した対象には、国際送金も含まれていた。
銀行間の国際送金は、コルレスバンクと言って、いわば中継銀行経由で行われることが多い。
日本とチリ間の国際送金では、米銀がコルレスバンクとして使われたのだろう。
青森の片田舎からチリに数億円を送金している。
しかも1年に何回も。
絶対に怪しいとにらんだCIAが、日本の公安警察に通報。
だが、公安警察は調査権限が無い。
そこで、仙台国税局が税務調査として乗り込む。
調査に入ってから30分で帳簿上「これだ!」と見つけたという。
何回も税務調査に立ち合っているとわかるが、30分で発見することなどまずない。
何をどの帳簿で探すかが最初からよくわかっていた証拠だ。
公安警察官もその日限りは、臨時の国税調査官となったに違いない。
マイナンバーが導入されれば、そんな銀行の入出金の異常値も即座に検知できる。
資産の情報を押さえるのは、収入を押さえることより、何倍も戦略的価値があるのだ。
ましてや、財産債務調書制度や国外財産調書制度も運用開始となっている。
本人から報告させた資産の情報とマイナンバーで自動集計された資産情報を突合すれば、その精度は高まろう。
本人が意図的に隠すのはもちろん、仮に意図せずにウソの報告をしてしまっても、ペナルティが課されるからやっかいだ。
従来は、他人名義の口座や簿外の口座に振り込ませたり、収入の一部を家族の口座に分散させたりして、脱税を企てる人がいた。
昔からあるそんな手口も、マイナンバーですぐ発覚する。
いったん発覚すれば、その人は昔からやっていたであろうから、過去7年間遡って調べれば、かなりの多額になる。
毎月の金額は少額でも、84ヶ月になると、自動的に多額になる。
時効が7年ではなく10年に改正予定だから、なおさらだ。
さらに年14.6%のペナルティがつく。
分割納付よりも、サラ金で借りて一括納付した方が安くつくかもしれない。
笑えない話だ。
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