M1村田宏彰公認会計士事務所
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M One News No. 16-07「マイナンバーで国税庁が虎視眈々と狙うもの①」で、国税庁が収入の元となる資産の情報を把握しようとしていることをお伝えした。
それが本丸には違いないが、それも、情報収集体制が整ってこその話。
つまり、マイナンバー導入後、国税庁は、情報収集体制を整えることに焦点を当て始める。
この情報には、本人が提出する情報と、第三者が提出する情報がある。
前者は確定申告、後者は法定調書と考えればよい。
「法定調書」とは、給与、家賃、報酬などの支払った内容を記載して、税務署へ提出しなければならない書類を言う。
おなじみの源泉徴収票や支払調書がそれにあたる。
この「法定調書」提出は義務なのだが、実務的にはあまり重視されず、曖昧に処理している中小零細企業も多かった。
税務署に一切提出していない中小零細企業もあったほどだ。
源泉徴収票や支払調書は従業員や取引先に発行しても、税務署への提出は「ついで」な中小零細企業が多かったということだ。
その主な理由はひとえに、実務が非常に煩雑な点にある。
給与・報酬・家賃等の合計額を「法定調書合計表」に記載して税務署に提出するだけでなく、その根拠となる「源泉徴収票」は、給与年500万円以上の従業員・給与年150万円以上の役員の分を添付しなければならない。
「支払調書」の添付は、外交員は年50万円以上を支払った個人の取引先のみ。
税理士や司法書士、原稿料、講演料などは年5万円以上を支払った個人の取引先のみ。
「家賃」は年15万円以上支払った個人の大家のみ(他にも細かい規定あり)。
これら1/1~12/31の金額を集計して記載し、翌1/末までに提出するのだが、その時期は年末調整と重なる繁忙期。
とてもやっていられない、というのが、実務担当者のホンネだろう。
それに対し、税務署は言わばお目こぼし状態だった。
それでも5~6年前から、年末調整説明会で、年末調整の説明が終わるとその後にある法定調書の説明を聞かずにさっさと帰る人が従来は後を絶たなかったため、年末調整よりも法定調書の説明を先にしたりするなどして、指導を強化してきた。
そこに、2016/01/01からマイナンバーの導入。
税務署の指導が、年末調整よりも、マイナンバーを記載する法定調書により一層重点が移ってくるのは、容易に想像できる。
源泉徴収票には、本人だけでなく家族のマイナンバーも記載しなければならなくなったため、大きさが倍になったし、マイナンバー収集が容易な役員や社員はまだしも、士業(税理士・司法書士・弁護士など)や遠方の講師からも収集しなくてはならない。
さらには、大家からも収集が必要だ。
個人の大家は年配の方が多いから、収集に素直に応じてくれるかどうか、はなはだ疑問であろう。
一方で、市区町村も脱税許すまじ、と動き始めている。
というのは、源泉徴収票を給与支払報告書と名前を変えて提出させることにしているのだが、1ヶ所だけに提出すればいい税務署とは異なり、社員の住所地ごとに集計して提出しなくてはならない。
税務署に提出しない中小零細企業が、市区町村だけきちんと提出するはずもない。
市区町村は、提出された給与支払報告書に基づいて住民税を計算するから、提出しない企業の社員は、結果として住民税を脱税することになってしまう。
補助金をもらいに窓口に行ったらバレてしまい、補助金どころか、数年間遡って住民税を支払うことになった社員もいるほどだ。
きちんと実務処理していなかった会社が悪いのに、とばっちりを受けた社員こそいい迷惑だが、税収減に苦しむ市区町村が見逃すわけがない。
さらに、一生変更できないマイナンバーの管理には高いセキュリティが必要なため、国は、マイナンバーを取り扱う会計事務所や社会保険労務士などに重い責任を課した。
こうして、マイナンバー導入をきっかけに、税務署、市区町村、さらには社会保険管轄の日本年金機構も含めた包囲網が、専門家まで巻きこみ、構築されていると言える。
われわれも情報管理社会に早く意識を慣らす必要がありそうだ。
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