M1村田宏彰公認会計士事務所
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『天網恢恢(てんもうかいかい)、疎(そ)にして漏(も)らさず』。
「天の張る網は、広くて一見目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。
悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむるということ」(故事ことわざ辞典)
最近、脱税摘発事件をよく耳にするようになった。
コンプライアンス意識が高まっている社会風潮や、内部通報制度の整備だけでなく、税務調査が広く浅くというより、怪しいものに対して集中的に行われる方向に変わっているのが、一因だろう。
また、支払調書を含めた情報収集精度が上がってきているのも、影響しているのに違いない。
その中で、情報連携の本格運用が2017/11/13 に始まったマイナンバー制度は、3年目に突入する。
もう少し具体的に言うと、2018/01/01 からマイナンバーが預金口座とひもつきになるのだ。
正確な資産把握を行うのが、国税庁の目的(=納税者のデメリット)。
マイナンバー提供は任意だから、イヤであれば拒否できるが、問題は海外。
というのは、マネーロンダリング防止や税収確保といった観点から、経済協力開発機構(OECD)が策定した共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)が2018/01/01 からスタートする。
これはタックスヘイブン(軽課税国)を含む100 以上の国や地域間における自動的情報交換制度で、銀行・証券会社・保険会社・信託の口座を対象とし、納税者の名前・住所・納税者番号・残高・利子配当等を電子ファイルで提供しあうというもの。
この納税者番号が日本ではマイナンバーにあたる。
つまりマイナンバー提供は、日本では任意でも海外では義務なのだ。
そして例えば、シンガポールに口座を持っていると、2017/12/末の情報が2018/09 までに国税庁に送付されてくる。
集計が面倒で申告をパスする場合はもちろん、パスワード失念等でログインできなければ、本人は金額すら把握できず、もちろん申告もできない。
国内利子の20%課税とは異なり、海外利子はMax 55%課税だから、申告しなければ、期限後のペナルティも含めると、ほとんど手取りが残らなかった、なんて話になってしまう。
また、2017/01/01 から海外で口座開設時にマイナンバーを求められるようになり、困惑するケースが続発している。
日本人の感覚からすると、「日本ではマイナンバー提供は任意なのに、なぜ海外で提供しなければならないのか」と思うだろうが、海外では義務なのだから、提供しないと口座を開設してもらえない。
海外に渡航する場合にマイナンバーを携える人はまずいないから、もし家族が日本にいて手伝ってもらえなければ、口座開設はできないことになってしまう。
CRSにはタックスヘイブンで有名なケイマン諸島・マン島やスイスが入っている一方、米国は加盟していない。
そのため、一部の富裕層に米国に資産を移す動きも出始めているが、国税庁は「米国にも情報交換を要請していく」としているから、安易な対応では税務調査のきっかけになるので、気をつけた方がいいだろう。
何しろ、富裕層に調査に入りたくてしょうがないのだから。不利になるきっかけを自ら与えるのはスマートな人のやることではない。
マイナンバーの本格運用開始で、国税庁は「天網恢恢、疎にして漏らさず」と呵々大笑しているだろうが、ジョージ・オーウェルが「1984 年」で描いた情報管理社会が身近に迫っているような危惧を覚えるのは、考えすぎだろうか。
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